「毎日30分は歩いている。運動は足りているはず」

そう考えている方は多いと思います。実際、歩くことは心臓や肺の働きを保ち、生活の活動量を維持するうえで有効な運動です。続けている方は、それだけで健康習慣として立派だと言えます。

ところが、毎日欠かさず歩いている方でも、椅子から立ち上がるのがつらくなったり、階段で手すりを使うようになったりすることがあります。散歩を続けているのに、なぜこうした変化が起きるのでしょうか。
理由は、歩くという運動の性質にあります。

毎日散歩をしているのに、椅子から立ち上がる時に手をついたり、階段で手すりが必要になったりして困惑しているシニア男女のイラスト

歩行は「今ある筋力を使う」運動であって、「増やす」運動ではない

筋肉には、日常生活で使っている以上の負荷をかけたときに初めて強くなるという性質があります。逆に言えば、いつもと同じ負荷を繰り返しているだけでは、今の水準を保つ方向にしか働きません。

ここで誤解されやすいのですが、歩行中に脚の筋肉が休んでいるわけではありません。たとえば骨盤の横ぶれを抑えている中殿筋は、歩行や片脚立ちで骨盤の側方傾斜を制動する重要な役割を担っており、歩いているあいだ繰り返し働いています(注1)。
体重を片脚で支えるという意味では、歩行はそれなりに負荷のかかる動作です。

問題は、その負荷の「強さ」です。歩き慣れた道を歩き慣れた速さで歩く限り、身体にとっては想定内の運動であり、筋肉に「もっと強くなる必要がある」という信号は届きません。使ってはいるけれど、増やすには足りない。これが、毎日歩いていても筋力が落ちていく最大の理由です。

歩行に意味がないというわけではありません。持久力の維持や生活リズムの安定には確かな役割があります。ただ、筋力を増やす、あるいは加齢による低下に抗うという目的に対しては、歩行だけでは届かない領域があるということです。

加齢で減りやすいのは「速く動く」ための筋肉

もう一つ、見落とされやすい点があります。

筋肉の線維は、収縮の特性から、持久力を担う遅筋線維(タイプI線維)と、瞬間的に強い力を出す速筋線維(タイプII線維)に大別されます。加齢による影響を受けやすいのは、このうち速筋線維のほうだとされています(注2)。老化では特に、速筋型のタイプII筋線維の萎縮が顕著に見られると報告されています(注3)。

速筋線維は、速く・強く動いたときに動員されます。弱い力で足りる場面では遅筋線維から先に使われるため、ゆっくりとしたペースの歩行では、速筋線維の出番はあまり多くありません。つまり、散歩を続けていても、加齢によって最も失われやすい種類の筋肉には、十分な刺激が入っていない可能性があるということです。

この影響が表れやすいのが、大きな力を必要とする動作です。立ち上がりや階段の昇り降りに制約が生じやすくなるのは、この線維の変化と関係しているとされています(注2)。

遅筋と速筋の違いを示す図解。ウォーキングで維持できる持久力の遅筋に対し、立ち上がりや階段に必要な速筋は加齢で減りやすく、リハビリで意識的に鍛える必要があることを解説したイラスト

「動かないこと」による低下は、また別の話

ここで、混同されやすい点を整理しておきます。

加齢による筋肉の減少(サルコペニア)と、動かないことによる筋肉の減少(廃用性筋萎縮)は、同じ「筋力低下」でも中身が違います。サルコペニアが加齢などに起因する進行性で緩徐な低下であるのに対し、廃用性筋萎縮は不動や不活動によって骨格筋にかかる負荷が減ることで起こり、短期間でも急速な筋量・筋力の低下がみられると整理されています(注4)。

つまり、動かない期間が続いたときの筋力低下は、加齢による変化よりもはるかに速いペースで進む可能性があるということです。

これを実生活に置き換えると、次のようになります。
膝や腰の痛み、あるいは病気をきっかけに外出が減ると、活動量が落ち、筋力が落ち、動作がつらくなり、さらに動かなくなる。
加齢による変化が年単位でゆっくり進むのに対し、この流れはもっと短い期間で進みます。

だからこそ、「動かない期間をできるだけ短くする」ことに意味があります。痛みを我慢して動くことでも、痛みを理由に完全に休むことでもなく、痛みの原因を確認したうえで、いまの身体で安全にできる運動を見極めることです。ここは自己判断が難しい部分なので、医師やリハビリ専門職にご相談いただくのが確実です。

ご自宅でできるセルフチェック

いまの状態を知る目安として、確認方法をいくつかご紹介します。

椅子から立つとき、手を使っていませんか

背もたれのある椅子に浅めに腰かけ、腕を胸の前で組んだまま立ち上がってみてください。反動をつけずに立てるかどうかが目安になります。手をついたり、何度か勢いをつけたりしないと立てない場合、下肢の筋力が落ちてきているサインかもしれません。

手を使わずに椅子から立ち上がる高齢者のイラスト

横断歩道を、青信号のあいだに渡り切れていますか

歩行者用信号の青の長さは、一般に歩行速度を秒速1メートルとして、横断歩道を渡り切れるよう調整されています(注6)。最近になって「渡り切る前に点滅し始める」ことが増えたなら、歩行速度が落ちている可能性があります。

信号を渡り切れない高齢者のイラスト

片足で立てる時間は変わっていませんか

壁や手すりのそばで、片足を床から少し浮かせて立ってみてください。ふらつく、すぐに足をついてしまうという場合は、バランス機能と股関節まわりの筋力を確認する目安になります。

片足立ちをする高齢者のイラスト

通所リハビリでは、何をしているのか

当院の通所リハビリでは、まず身体の状態を評価することから始めます。

筋力、歩行の速さと安定性、バランス機能、関節の動く範囲、痛みの出る動作。これらを理学療法士が確認し、どこが生活の困りごとにつながっているのかを整理します。「歩きにくい」という同じ訴えでも、原因が筋力なのか、バランスなのか、関節の硬さなのかで、必要な運動はまったく変わるためです。

そのうえで、目的に応じた機器や運動を組み合わせます。

自転車エルゴメーターは、膝への負担を抑えながら下肢に負荷をかけられるため、関節に不安のある方でも取り組みやすい運動です。負荷を個別に設定できるので、体力に合わせた調整ができます。

傾斜台は、足首の柔軟性を保つために使います。足首が硬くなると歩行時の重心移動がしづらくなり、つまずきの原因になることがあります。

重錘(おもり)を用いた運動では、歩行では得られない強さの負荷を、特定の筋肉にかけることができます。先ほど述べた「いつもと同じ負荷では筋力は増えない」という問題に、直接働きかける方法です。

こうした負荷をかける運動(レジスタンス運動)は、速筋線維優位に筋のサイズや筋断面積を改善させうるとされています(注5)。

バイク運動
バイク運動

変化に気づいたときが、相談のタイミングです

筋力が落ちきってから鍛え直すのは、簡単なことではありません。いまできていることを、できるだけ長く続けられる状態を保つほうが、負担ははるかに小さくて済みます。

  • 「立ち上がるとき、無意識に手をついている」
  • 「外出する回数が、去年より減った」
  • 「歩くのが遅くなったと家族に言われた」

こうした小さな変化に心当たりがあれば、それが確認のタイミングです。

喜ぶシニアのイラスト

仙台すこやかクリニックでは、医療と通所リハビリが連携し、住み慣れた地域で自分らしい生活を続けていただけるよう支援しています。
通所リハビリの見学・ご相談は随時受け付けておりますので、お気軽にお問い合わせください。

【この記事の監修】
医療法人星陵会 仙台すこやかクリニック理学療法士

参考文献・出典

(注1) 金承革・柴田昌和・土田将之・栗田泰成・塚本敏也「中殿筋の肉眼解剖学的構造と歩行における機能」『バイオメカニズム』25巻、151-165頁、2020年(査読有)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/biomechanisms/25/0/25_151/_article/-char/ja

(注2) アルメディアWEB「骨格筋の加齢変化の特徴|高齢者の筋力低下に対する運動療法」(最終アクセス:2026年9月)https://www.almediaweb.jp/motorsystem/exercise-therapy/part1/03.html

(注3) 上住聡芳・中谷直史・常陸圭介・土田邦博「老化や疾患における骨格筋の萎縮と治療への応用」日本基礎老化学会『Biomedical Gerontology』34巻4号、5-11頁
https://www.jsbmg.jp/backnumber/pdf/BG34-4/34-4_5-11.pdf

(注4) 「筋萎縮・サルコペニア」『医学のあゆみ』294巻10号(最終アクセス:2026年9月)
https://webview.isho.jp/journal/detail/abs/10.32118/ayu294100910

(注5) 公益財団法人長寿科学振興財団「各論2 基礎研究からの最新知見 1. メカニズムから解き明かすサルコペニアの病態」(最終アクセス:2026年9月)
https://www.tyojyu.or.jp/kankoubutsu/gyoseki/frailty-yobo-taisaku/R2-4-1.html

(注6) 警視庁「歩行者横断秒数の延長」(最終アクセス:2026年9月)
https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kotsu/iken_yobo/shingo_faq/crosswalk_extention.html