トレッドミル3 20260715

「トレッドミル」耳慣れない方は、「ランニングマシン」「ルームランナー」と言えばピンとくるでしょうか。あのベルトの上を歩く機械のことです。
呼び方が違うだけで、フィットネスの世界では「ランニングマシン」、リハビリや医療の現場では走ることを前提としない歩行練習にも使うため「トレッドミル」と呼ばれることが多い、という程度の違いです。
実はこの機器、リハビリの現場でとても頼りになる存在なのです。

「歩く練習なら、外を歩けばいいのでは?」

そう思う方は少なくありません。けれど、退院後の生活を思い浮かべてみてください。段差、雨で濡れた路面、信号待ちで急に速度を変える場面…外の世界は、歩行を練習するにはあまりにも予測不能です。

トレッドミルは、その”予測不能さ”を一度取り除いた場所で歩く練習ができる機器です。
ベルトの上を歩くので、転倒や道路状況を気にすることなく、自分の一歩に集中できます。
そして慣れてきたら、速度や傾斜を少しずつ変えて、外の世界に近づけていく—安全な室内から、実際の生活へと橋を架けるのがトレッドミルの役割です。

トレッドミルだからできること

一定の条件で、何度でも繰り返せる

屋外では、その日の天気や体調、道の混み具合で練習の質が変わってしまいます。トレッドミルなら同じ速度・同じ傾斜で歩行を反復できるため、「昨日と比べて今日はどうか」を体で確かめやすくなります。この”条件をそろえられる”という点が、機能の改善を追いかけるうえで大きな意味を持ちます。

負荷を1段階ずつ、細かく調整できる

速度も傾斜も、わずかな幅で設定できます。回復の段階や、その日のコンディションに合わせて「今日は少しだけ速く」「今日は平地でしっかり」と微調整できるため、無理なく—ではなく、”つらすぎず、物足りなくもない”ちょうどの負荷を狙えます。

フォームをその場で見て、その場で直せる

良い歩行姿勢とは、背すじがまっすぐで、視線が前を向いている状態です。当院では「天井から糸で吊るされているイメージで」とお伝えすることがあります。こう意識するだけで、姿勢も視線も自然と整いやすくなるからです。

こうした姿勢や歩き方の癖は、外を歩いているとなかなか自分では気づけません。トレッドミルの前に鏡を用意すれば、ご自身の歩く姿を見ながら、その場で注意点や癖の修正を促し、改善が必要なところをリハビリの中で訓練していくことができます。

当院理学療法士より(急性期・回復期・維持期を経験した理学療法士)
たとえばパーキンソン病のある方は、下を向いて歩いてしまうことがあります。足が前に出にくくなる「すくみ足」に対しては、声かけをしたり、数を数えながら足を出していただくとスムーズに歩ける場合があります。こうした声かけは、お一人おひとりの状態に合わせて変えています。リハビリの中で少しずつ訓練し、状態が悪くならないよう努めています。

ただ歩数を稼ぐのではなく、”良い歩き方”を体に覚え込ませていく。そこにトレッドミルと専門職が関わる意味があります。

こんな方におすすめです

  • 歩行能力そのものを取り戻したい方
  • 歩くときのふらつきや不安定さが気になる方
  • すぐに疲れてしまい、長く歩けるようになりたい方
  • パーキンソン病などで、歩き方に不安のある方
  • 「また外を歩けるだろうか」と不安を感じている方

当院では、股関節・膝関節の人工関節置換術後や骨折後の方など、整形外科疾患のリハビリでトレッドミルを活用しています。機器は3階の「りはびり塾」に設置しています。
歩行中は、緊急停止装置に加えて、近くで職員が見守り、椅子をご用意するなど、安全に配慮した体制を整えています。

とくに”歩けるだろうか”という不安は、リハビリの大きな壁になります。
転ぶ心配のない環境で「今日は続けて歩けた」という小さな成功を重ねるうちに、その不安は少しずつ「歩けるかもしれない」という手応えに変わっていきます。

続けられる人は、何が違うのか

リハビリで結果を出す最大の条件は、実は「続けられること」です。そして続けられるかどうかは、根性ではなく設定で決まります。

当院では、速度を年齢や疾患に合わせて療法士が設定し、最初は傾斜をつけずに始めることが多いです。
時間はおよそ10分から始め、ご本人の疲労度を見ながら調整します。
負荷を上げるかどうかは、療法士の評価に加えて、呼吸数や脈拍といった客観的な指標も見ながら、ご本人と相談して判断します(いずれも状態により調整します)。

こうして”少し頑張れば届く”ラインを保ち続けることが、「できた」という実感を絶やさないコツです。達成感が次の意欲を生み、意欲が次の一歩を生む—この好循環に乗れるかどうかが、数週間、数ヶ月後の歩行力を大きく分けます。

トレッドミル

室内の一歩が、外の一歩につながる

トレッドミルの本当の価値は、「安全に歩ける」ことそのものではなく、安全な場所で積み上げた練習が、玄関を出たあとの生活に効いてくる点にあります。

実際に続けられた方の中には、歩行評価で歩く速度が改善したり、歩行時の安定性が向上したりした方もいます。
「以前よりも歩いたときの疲れが軽くなった」「坂道が上りやすくなった」など、こうした声も、日々の練習の積み重ねから生まれています。

同じリズムで繰り返し、フォームを整え、負荷を段階的に上げていく。
その一つひとつが、買い物へ、散歩へ、そして“行きたい場所へ自分の足で向かう”という日常へとつながっています。
歩く練習は、歩くためだけのものではありません。その先の暮らしを取り戻すための練習なのです。

【この記事の監修】
医療法人星陵会 仙台すこやかクリニック理学療法士